煙と優等生
優等生である亮にとっては日頃の授業は退屈極まりないもののうちの一つであった。終業と昼休みの始まりを告げるチャイムが鳴ると、亮は屋上へと向かう。
屋上は昼食をとる生徒で賑わっている。貯水タンクの影で今朝買ったサンドイッチをかじって、非常にもそもそした時間を過ごす。
(……乾いている)
雲一つ無い晴天の空をボーッと眺めていると、後ろから声をかけられる。
「よっ!カイザー!」
「十代」
レタスを飲み込んで向き合う。それとない話をして昼休みは終わる。
「そういえば、翔の相手はしてやらないで良いのか?」
「いやー翔が保健室にいたからさ。付き合わせちまってわりーなぁ」
そうか、と一言、チャイムも鳴ったのに動かない亮に十代がいやらしい顔で茶化す。
「あっれえ、カイザーなんて呼ばれる優等生がサボりですか?」
「別にいいだろ?」
「俺は一度もサボってないんだぜ。寝てるけどさ」
「俺は保健室に行くと嘘をついてごまかす」
亮はおもむろに胸ポケットから煙草を取り出し百円ライターで火を付けると、くわえて十代に見せた。十代は一瞬目を見開くと、叫んだ。
「ちょおっ、カイザー!?それ駄目だろ!」
「別にいいだろ」
「よくないっ!」
ぷかぷかと煙を漂わせる亮にはなにか陰りが感じられ、傾きかけた日と絶妙にマッチしていた。
完全に十代を置いてけぼりにして、亮は二本三本と煙草を吸い続けると、やっと屋上から帰ろうと動き出した。
「あっ……帰んの?」
「ああ、……そろそろ行かないと単位が落ちるからな……」
最後の一本を吸い終わると、吸い殻を携帯吸い殻入れに突っ込んだ。
「ねえ!煙草おいしい?」
「……というか、優等生ぶってるのも疲れるからな。悪いことでもしようかと思ったんだ」
「へ、へえー」
よくわからないと思いつつ、何故かかわいらしさを感じて温かい気分になる十代。
「ヘヘ……カイザー!待ってくれよ!」
(俺にも少し!)
(……成長期は駄目だ)