ほっかいろまじっく
気が付けばもう授業なんて全部終わっていて、起き上がって校庭を見下ろすと運動部が走っていたりボールを投げていたりと、自分だけが取り残されたような感覚に陷る。というのも実際には隣にもうひとりいるので、感覚だけにとどまるのだが。
「かーいざぁ」
「なんだ」
昼寝気持ちよかった?と尋ねる十代に、ああ、と返してやる。
今日、はじめてサボりというものを体験した。
「不思議な気持ちになるな……いつもは俺があそこにいるのに、お前と二人であれを眺めるなんて考えてもいなかったから」
午後の授業開始に屋上で眠った。当たり前のことだが、そのときはまだ空は青かったのに、目覚めると空は綺麗な茜色で。吹く風もやや冷たく、髪をかきわけて呟いた。
「たまにはいいだろ?」
まあ、たまにはな。
そろそろ帰ろう、あんまり遅くなってはいけないと相手を促して、互いの教室へ鞄を取りに戻る。
「カイザーはいっぱい持って帰るんだな」
「お前は入れなさすぎだ」
「だって重いんだからしょうがないじゃん」
下駄箱まで鞄について話しながら歩き、途中で中身を入れるか入れないかで軽い口喧嘩に発展してしまい、俺が折れて仲直りはしたのだがもうあたりはすっかり夜で。運動部は居残り練習組だけになり、下駄箱についていざ靴を取り出すとその靴の冷たさに声をあげた。
「……冷たい」
「ローファー冷えてんのか」
俺スニーカーだし、と片足をあげて見せびらかす十代にムカついたので突き飛ばしてやると転んでしまった。
「ぷはぁー……息白いぜ」
「そうだな」
雪もないのに寒すぎる冬の道を二人で歩く。十代らしくもなく、それからはあまり話さなかったのだが急に、「カイザー!」と俺の腕を引っ張り、顔をあわせる形になると抱きつかれ、驚いて固まっていると冷たい手を頬に添えられた。
「ひっ……!?」
「あっは!冷たかった?」
無理矢理ひっぺがそうとしてもどかないので諦めた。
「……かいざぁ、あったけ」
「おまえは冷たい」
お返しに両手を十代の頬に添えてやると、つめてぇと怒られた。
「おまえは暖かいほうなんだから少しくらいいいだろ?子供は体温が高いんだから」
「子供じゃねーし……」
冗談で言ったつもりだが機嫌を損ねてしまったようで、十代の手は頬から首へと動き、強い力で下に引っ張られると首筋にキスをされてしまった。
「子供じゃねーし!」
と、いうとあっけにとられている俺を置いてずんずん進んでしまった。
「もう……俺帰るから!寒いんだからこれ使えよ!」
一瞬だけ振り返って何かを投げた十代は、耳まで赤くなっていて。じゃあな、とぶっきらぼうに言うと走り去ってしまった。
投げ渡されたものはぬるく、やや固まりができていたカイロだった。
(……もうカイロはいらないだろ)